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爽やか?

 それでもアスカの中では、男に対して一つだけ、好意に感じるところがあった。男から何も声が聞こえないことだった。お喋りな精霊達の声が一切しないのは当然として、死者達のおぞましい声も聞こえなかった。  人間の客は引き連れて来ることが多い。ゾンビにも劣らない悪臭でわかる。おどろおどろしい声を聞かされる前に遮断しているが、男からは清廉な匂いしかしない。半死人とも言われているのに、この爽やかさには驚愕させられる。白蝋気味の肌や銀白色を帯びた錫色の瞳を気にしなければ、清潔感漂う裕福な洒落者といったふうだった。  アスカは普通の人間になった気分で男を眺めた。人らしい好奇心に胸が躍る。美男揃いと評判のヴァンパイアの顔をうんぬん言う気はないが、漆黒の髪と、額に掛かるその一房には、キュンと来るものがある。 「こう、かき上げてやりたくなるっての?」  アスカはせせら笑うように言い、にやつきながら続けた。 「ハゲてちゃ出来ねぇし」

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