〝あとでまた来る〟 　男がアスカの横に立つ前に、テーブルの向こうから座ったままで言ったことだ。〝あと〟がいつで、〝また〟が何故かを聞くつもりはなかった。会話は情報の宝庫で危険極まりない。知らないままにしておく方が安全だ。 「あっと、時間なので、お帰り頂けます？」 　アスカの本音は〝とっとと失せろ〟だが、瞬間移動を目の当たりにしたあとでは、言葉遣いにも気を使う。臍を曲げられては大変だ。超人的な破壊力まで知る必要がどこにある。平和も譲歩があってこそだ。 　アスカはフードで見えないというのに、作り笑いまで浮かべた。恐怖がそうさせたのかもしれないが、思いを察して欲しい気持ちもあった。余り感情を表に出さないヴァンパイアでも、元は人間だ。少しくらいは機微に聡いところを見せても損はない。なのに、男は恥ずかしげもなくこう言った。 「私が……怖いのか？」 　そういう台詞を、アソコをビンビンに刺激する声で言って欲しくはなかった。