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今日の予約?

「ほっとけよ」  水の聖霊の響きは優しい。刺激的な遊戯が洗い流されて行く。〝ウフフクフフ〟と同じようなものだとしても、迸る濁りが清められ、慰められる。水のゆったりした流れにむすっと答えたアスカだが、雅やかな流水に濡れる顔は心地良さげに綻ばせていた。  アスカはすっきりした気分でシャワーを終えた。今なら〝クソマジにヤバい声の男〟にも勝てそうな気がした。バスタオルで体をふきながら、これという根拠もなしに思っていたが、そのせいか、ボクサーパンツに足を通していた時に、男が言い残した言葉が頭に浮かんだ。 〝日暮れに迎えに来る、人に会うのに相応しい装いで待つように〟 「なんで俺が?こっちにも都合ってもんがあるんだよ」  アスカはふんと鼻を鳴らした。男に構っている暇はない。今日の予約がまだ一件残っている。それも新規の客だ。常連になってもらうには、身も心も健全な状態にしておく必要がある。シャワーはその為のものでもあった。

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