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一押し?

 〝気のいいお二人〟の冷たく素っ気ない態度を気にしても始まらない。決して笑みを崩さない担当者は胡散臭げでも、〝気のいいお二人〟という言葉に嘘はなさそうだった。時代の変化に売れ残った家を、新居を探していたヴァンパイアと山男に売り付けるような人間だ。責めても仕方がない。それより売れ残った本当の理由をアスカは気にした。  この家を清楚な恥じらいに煌めかせるものが、禍々しい因縁であるはずがない。地の聖霊の力強い波動のせいと、アスカにはすぐに気付けた。地の聖霊は水の聖霊にも増して優雅で奥ゆかしい。滅多なことでその力を見せることはない。それ程にこの土地が特別なのだろう。  〝気のいいお二人〟の二軒も、少女趣味の極みのようなこの家と同じ造りというのは、担当者から聞かされていた。〝気のいいお二人〟の趣味を馬鹿にする気はない。それでも男を意識するのなら、地の聖霊の一押しと言われても、アスカには喜べることではなかった。

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