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気に入ったの?

 何をしても無駄な足掻きであることは、アスカにはわかっていた。それでも道を探すのが男だ。自分にはまだ最後にすがれる存在がいる。そこに気付き、アスカは隣に立つ父親を頼もしげに見詰めた。  思った通り、父親は引き気味に家を眺めていた。アスカはにんまりし、合図を送った。父親は息子の眼差しを理解し、男同士の暗黙の了解に頷いた。  資金を借りるのだからと、下見に誘って正解だった。少女趣味の極みのようなこの家との縁を切ってもらえる。アスカには無理でも、普通の人間である父親には可能なことだ。アスカはこれで道が開けたと安堵したが、それも肝心要な母親の存在を忘れていたからだ。父親の側に母親あり。当然過ぎて頭になかった。 〝素敵!〟  アスカは瞬間的にまずいと思った。母親の意見一つで、父親が変節するのは目に見えている。 〝気に入ったの?〟 〝ええ!〟  それで決まった。誰の家になるのかを思い出させても、父親には関係しない話になった。

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