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住めば都?

 両親は不動産会社の担当者と、キャッキャ笑いながら家の中へと入って行った。アスカは一人で外に残り、この家に宿る精霊達の歓喜の叫びを聞いていた。 〝やった!やった!〟  この家を少女趣味の極みにしたのは不動産会社ではない。地の精霊でもないだろう。地の精霊は気に入らない人間を寄せ付けないようにしただけと、アスカにはわかった。  アスカは観念し、重い足取りで敷石をポーチに向かって歩き出した。歩きながら思っていた。客は女が多い。少女趣味も有利に働く。それで惨めな苛立ちも僅かながら宥められた。  実際に住んでみると、そう悪くないことに気付いた。観光化された端っこというせいか、両親がモンスター居住区に来やすくなった。日に日に騒がしくなる中心街では難しかっただろう。この半年、両親は時折訪れては、別荘気分で田舎暮らしを楽しんでいる。アスカに引っ越しの挨拶をさせたような両親だ。モンスター居住区も住めば都と思えるようだった。

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