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鉄面皮?
「予約はもう一件ある」
愚痴っても仕方がない。それより仕事優先と思い、アスカはネット予約へと気持ちを切り替えた。
この予約も初見の客らしく、運勢を気楽に鑑定する四十分のコースを選んでいた。フジタクミという名前で申し込まれ、支払いも済んでいる。キャンセルの連絡もない。常連に出来たのなら、あの男の損失も補える。しかも男が来ると言ったまさに日暮れ時の予約だった。
「ヴァンパイアなんか怖かねぇぞ」
アスカは果敢に呟き、彼女の為にロングドレスに着替え、マントを羽織った。
精霊達はあの男のことを高潔と言った。見解の相違はあっても、彼らの言い分として見るのなら、間違いなく正しいことになる。仕事中であれば遠慮するということだ。まかり間違って無遠慮に乗り込んで来られたのなら恐怖だが、透かさず『人間外種対策警備』に連絡すると脅し返す。さすがに鉄面皮なあの男にも、アスカの気持ちがわかるだろう。
「とっとと失せろ……ってな」
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