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心細さ故の?

〝わたくしが懇願したのでござりまする〟  わびしげに響くヤヘヱの口調には、複雑な心情が匂い立つ。それも精霊としては、本当におかしなことだった。 〝我らが殿は仰せられました、ヤヘヱを名乗るは、長きにわたり共に過ごしたものどもと袂を分かつこと、覚悟ありやと、わたくしは申しました、情を捨ててこその忠義と、故に、わたくしは今この時を除き、我らが殿のお側を片時なりとも離れたことがないのでござりまする〟  アスカの周りで騒ぐ聖霊達は、気紛れで人間に毒されやすい。時代に合わせて言葉遣いも千変万化と軽やかだ。ヤヘヱは名前を持ったことで自我に目覚めたのだろう。その口調は一徹者を思わせた。 〝小声なりとのご叱責、暫時とは申せ、心細さ故の失態、心よりお詫び申し上げまする〟  アスカは勝手の違う精霊達に苛立ったが、彼らのだんまりにも意味があったと気付いた。ヤヘヱを同じには扱えない。一個の存在として、関係を築くのが先ということだ。

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