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男の思い?
「あはははっ」
アスカは笑った。あの男がテーブルに名刺を残したのを思うと、腹が立ってならないが、ヤヘヱとの遣り取りには笑わされる。それを男に見透かされていたようだ。男は確実にメッセージが伝わるよう、信念をもってヤヘヱを名刺に残した。
アスカが声を上げて笑ったせいか、ヤヘヱには睨み付けられた。仄かな光を鈍いものにして、一徹者らしい厳しさを見せ付けて来る。心細さにびくついたというのに、〝我らが殿〟の為、強気に出ている。その殿には腹が立っても、ヤヘヱの実直さには微笑まされた。
「わかったよ」
アスカは笑顔のまま頷いた。
「俺の負けだ」
〝おおっ〟
勝ちを譲られ、ヤヘヱが素直に喜んだ。鈍い光に輝きが戻り、気分を映す煌めきにも明るさが浮かぶ。男に相当可愛がられているようだ。家臣というよりペットに近いが、その大切な家族を、あの男はアスカのもとに残した。そこに隠された男の思いを無視することは、アスカには出来なかった。
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