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ここにいる?
「で、あいつ、なんだって?」
ヤヘヱは精霊だが、聖霊達のように遠慮なしに言い合える関係とまでは行かない。ある程度の気遣いは必要だろう。アスカは前置きから外れないよう言葉を足して、ヤヘヱを優しく促し続けた。
〝それでは、お伝え致しまする、フジタクミ……〟
読み通り、ヤヘヱが滑らかな口調で話し出したが、思いも寄らない名前を聞かされ、アスカは焦った。フジタクミの裏にあの男がいた。彼女はあの男の知り合いだった。アスカは二人の繋がりを知ろうと、ヤヘヱを問い質しそうになったが、我慢した。
〝己が頼みによりて予約せし者、故に……〟
内心、クソと苛立つアスカをよそに、ヤヘヱが悠々と話を継ぐ。
〝……魔女たる装い、いたづらなり、人に会うが相応しは、男子たる装い、下世話なるスゥエットとて構わぬ〟
「はっ、はっ……」
アスカはまたも、それもあの男がここにいるかのように自然と、あの男に爆笑された台詞を吐いていた。
「はっ……い?」
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