85 / 811

ここにいる?

「で、あいつ、なんだって?」  ヤヘヱは精霊だが、聖霊達のように遠慮なしに言い合える関係とまでは行かない。ある程度の気遣いは必要だろう。アスカは前置きから外れないよう言葉を足して、ヤヘヱを優しく促し続けた。 〝それでは、お伝え致しまする、フジタクミ……〟  読み通り、ヤヘヱが滑らかな口調で話し出したが、思いも寄らない名前を聞かされ、アスカは焦った。フジタクミの裏にあの男がいた。彼女はあの男の知り合いだった。アスカは二人の繋がりを知ろうと、ヤヘヱを問い質しそうになったが、我慢した。 〝己が頼みによりて予約せし者、故に……〟  内心、クソと苛立つアスカをよそに、ヤヘヱが悠々と話を継ぐ。 〝……魔女たる装い、いたづらなり、人に会うが相応しは、男子たる装い、下世話なるスゥエットとて構わぬ〟 「はっ、はっ……」  アスカはまたも、それもあの男がここにいるかのように自然と、あの男に爆笑された台詞を吐いていた。 「はっ……い?」

ともだちにシェアしよう!