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八つ当たりか?

 言葉には霊的な力がある。悪い意味での引き寄せの呪文にもなる。人間には無意識での欲求があり、特に心のうちへの注意を怠ってはならない。『霊媒』が何を今更だが、アスカは人間だ。間違いを犯す。 「はっ……い?」  それが合図というかのように、ひんやりした風が背中を吹き抜けた。爽やかな匂いに鼻孔も刺激され、あの男が去った時と同様に音もなく現れたのを、アスカは知る。 〝おおっ、おおっ〟  声を弾ませるヤヘヱとは反対に、アスカは顰めっ面だ。その顔付きでヤヘヱを睨むが、宿っていた名刺からは何も感じられない。仄かな光も消えてなくなり、そこに存在するだけの小さな紙を見るだけだった。それで心安げに、アスカはしようと思っていたことをした。さっと手に取り、くしゃっと丸めてゴミ箱に投げ入れたのだ。 「八つ当たりか?」  マジにヤバいその響きに、アスカのアソコがぴくッとする。ヤヘヱに負けじと弾むアソコに、アスカはムカついてならなかった。

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