「えっと、フジタクミはあんたの……女じゃねぇのな？」 　アスカは馬鹿馬鹿しいと思ったが、男はアスカ以上の馬鹿馬鹿しさで、ふんと鼻を鳴らした。他に何も言う気がないようで、厚みのある男らしい唇を真一文字に引き結ぶ。 〝はて？〟 　それはヤヘヱの声だった。アスカは声を追って男の肩先へと視線を向けた。仄かな光が穏やかに、アスカを迎えるように揺れていた。 　男はスーツから私服に着替えていた。ライトグレーのＶネックニットに、ダークネイビーのスリムシルエットのスラックスを合わせ、革靴で引き締め、普段着の軽やかさを見せながらも落ち着いた大人の雰囲気を匂わせている。そのVネックニットの肩先に、ヤヘヱがいた。 　ヤヘヱは仄かな光に煌めきをゆらゆら舞わせ、粛々と話を繋げて行く。 〝女とは、フジタクミでござりまするか？〟 　ヤヘヱは精霊だ。そこに漂う気まずさには頓着しない。男の肩先に鎮座し、男に代わって話すのが役目と思っていそうだった。