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あんたの男?

〝あなた様は、間違われておりまする〟  男の肩先で揺れる仄かな光に、煌めきが緩やかに舞う。厳かな雰囲気を保ちつつ、アスカに事の次第を聞かせようとするヤヘヱには、ヴァンパイアに変異した〝我らが殿〟の側役としての自負があり、鈍い動きでゆったりと舞う煌めきにも老練とした様子を映していた。 〝かの者、新参者なれど、チヲカテトスルモノでありまする故、おなごではござりませぬ、口達者で小憎らしい者でありまするが、我らが殿の情けを受け、お側にて仕えているのでござりまする、今般も、忌み名を用い、我らが殿の寵愛に報いたのでござりまする〟  ヤヘヱが話しているあいだに、アスカは視線を男の肩先からハンサムな顔へと戻していた。男はあれ程にきつく引き結んでいた唇を、苦笑気味に歪ませている。そこに〝女はいない〟と言った男の真意を、アスカは見せられた気がした。 「フジタクミってのは……」  思いがそのまま口に出た。 「あんたの男なんだな」

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