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〝だ〟?
男の声が邪魔をして、聞き取れなかったヤヘヱの言葉には何かが隠されている。ヤヘヱは〝なんと……だ〟と中途半端に終わらせているが、その直前には〝あなた様〟と話していた。自分の何が〝なんと……だ〟なのかを知る必要があると、アスカは思った。
精霊達は気紛れだが、アスカに聞いてもらえるとわかれば、うるさいくらいに喋りまくる。聞き方さえ間違えなければ、知りたいことを聞けるのだが、さじ加減が難しい。下手に聞けば、むすっと押し黙られるか、逆に嫌という程ろくでもない話を聞かされることになる。
「おいっ」
男は甘やかすばかりのようだが、アスカは遠慮なしに対処して来た。今もそうだ。仄かな光と向き合い、ぶっきら棒に聞く。
「あんた、さっき、何を言おうとした?〝だ〟って何?」
〝おおっ、それは、み……〟
「ヤヘヱ」
男がまたも平坦な調子で名前を呼んだ。どうやら〝だ〟には、男にも都合の悪いことがありそうなのが、アスカにはわかった。
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