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甘さは保たれて?
スーツをそつなく着こなせるだけあって、Vネックニットに浮かび上がる男の上半身は見事なものだった。普段着にしても根っからの資産家という雰囲気で、スリムシルエットのスラックスのポケットに片手を入れて、やや斜めにして立つ姿も粋で素晴らしい。ヴァンパイアの白蝋気味な肌と、死者の瞳と呼ばれる銀白色を帯びた錫色の目を差し引いても、人間であれば誰もが男を求めて熱くなるだろう。
何を着せても当世風でカッコイイ容姿は、アスカの〝もろタイプ〟でもある。しかし、アスカにはそれ以上に嗜好を刺激するものがある。見た目より声の方に興奮する。特にアソコの言い分は強烈だった。子供のような純真さを見せようが、男の声を聞き付けた途端、アソコはヤヘヱに負けじと喜んでいた。
その時の男の声には笑いがあった。怒りを滲ませても、底にある官能的な甘さは保たれていた。ヤヘヱが恥じ入ったのは、平坦な調子に変えても響くその甘さにあるようだった。
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