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〝み〟は?

 男に聞いても埒が明かない。ヤヘヱを乗せて喋らせる。アスカは逃げたヤヘヱを見付け出そうと、男を眺め回した。そして探し当てた。男が片手を入れるスラックスのポケットと、ニットの袖口とのあいだに、身を潜めるように仄かな光が揺れている。  ヤヘヱの新たな宿り先は、男が手首にはめる腕時計だった。アスカはニットの袖口に半分隠れるようにするヤヘヱに、ニヤリとして言った。 「隠れたって無駄さ、あんたは精霊だ、俺から逃げられやしねぇっての」 〝逃げでなど!おりまぜぬ!〟  ヤヘヱがだみ声で叫んだ。聖霊魂がそうさせるのだろう。鼻息荒く喋り出す。 〝これなるは!お側にて仕えたいという!わたくしの願いによりて!我らが殿が!買い求められた物の一つでござりまする!〟 「へぇ、そりゃ良かったな」  アスカはヤヘヱの自慢話をさらりと流した。 「で、〝だ〟は何?〝み〟は?」 〝うぐっ〟  喋り出したら止まらない精霊のヤヘヱが口籠った。それを男が笑った。

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