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〝だ〟?〝み〟?
アスカは胸のうちで自分自身に悪態を吐いた。部屋の片隅に寄り集まり、淑やかに取り澄ます聖霊達の異様な静けさに苛立ち、惑わされたのが悪いと気付く。名刺のことは放って置き、ヤヘヱの相手をするべきではなかったのだ。
「そういうことか」
平穏な生活がどんどんと遠退いて行くようでも、今更あとには引き下がれない。ヤヘヱが男のものだろうが、聖霊達と同じ扱いをする。アスカは余裕で笑う男を無視し、高慢ちきな態度で、腕時計に向かってからかうように話し掛けた。
「あんた、仕えるだのなんだの、カッコつけてっけど、我らが殿様にピーピー泣き付いてるだけだろ」
〝ピっ、ピーなじょ!じでおりまじぇぬぅ!〟
ヤヘヱの物言いが怪しくなった。あとひと押しでゲロしそうだ。そのせいか、男がふっつりと笑うのをやめていた。名前を呼ぶ気かもしれない。アスカはそうさせないよう警戒しながら、ヤヘヱの言葉をさらりと流し、簡潔に促した。
「〝だ〟?〝み〟?」
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