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利き手の動き?

 男が手首にはめる高級実用時計と言われるそれは、男にしっくりと馴染んでいる。歴史と伝統を感じさせるアンティークもので、ヤヘヱのお気に入りの場所であると同時に、長年、男に大切にされ、守られて来た場所でもあるようだった。 「クソがっ」  そこに逃げ込むとは、いい度胸だと、アスカは思った。僅かにあったヤヘヱへの遠慮も木っ端みじんに砕け散り、精霊達に腹を立てた時のように大声で叫ぶ。 「逃げんじゃねぇ!出て来い!」  男が声を上げて笑わなければ、腕時計に向かって叫び続けていただろう。男の笑い声がアスカにも行動の滑稽さを思い知らせる。アスカは口をへの字にし、掴んでいた男の手首を放るようにして離し、男からも離れて後ろに下がった。下がったはずだった。 「なっ?」  驚きながらも、間の抜けた声で続ける。 「なんだぁ?」  アスカは男が手首にはめる腕時計に気を取られ、利き手の動きに気付けなかった。いつの間にか腰に回されていたのだった。

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