106 / 811

居座るつもり?

 男に気にされないのは喜ばしいことだ。アスカの自尊心をズタボロにした記憶も、初めからなかったことになる。それでほっと息を吐けたのかというと、そうも行かない。これでは、アスカが一人で癇癪を起こしたと思われるだけだ。そこに気付き、イライラと胸が愚図り始めた。  責任はこの状況を引き起こした男にある。ヴァンパイアの身分を隠して占いの予約をした。肝心なことを言わない精霊のヤヘヱを残し、時間を浪費させた。半端な説明でアスカを糧にし、ここへと連れ出した。それなのに、男はいけしゃあしゃあと無表情でいる。  アスカは思った。男が厚顔さをひけらかすのなら、張り合うまでだ。男の腕に収まったまま、むずと腕を組み、逞しさを見せ付ける。 「君は……」  男が少しだけ口元を緩ませた。何を思ったにしても、感情らしきものを覗かせて言った。 「……降ろせと喚いていたな」  そのあと、口調に悲哀を漂わせて言葉を繋げた。 「私の腕に居座るつもりか?」

ともだちにシェアしよう!