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吸わない?
男がアスカの剣幕に唖然とする。ウルトラハイパースポーツカーを〝クソ車〟と言える図太さに、呆れたというのではなさそうだった。目付きの無情さはとうにない。銀白色を帯びた錫色の瞳も薄ぼんやりと潤んでいる。男は自分に向かって声を張り上げたアスカに心底から驚いているようだった。
「ふん!」
男が何をどう言い返すつもりだったとしても、アスカは男の言葉を吹き飛ばす勢いで鼻を鳴らした。鼻息は勢い余って男が手首にはめる腕時計にまで達したようだ。男の側役を自認するヤヘヱが、主人の一大事に馳せ参じようと勇ましげに割り込んで来た。
〝なんたる狼藉!〟
男の腕は下げられている。ヤヘヱがアスカに怯えて潜り込んだ腕時計の位置も、男の腰辺りだ。小声では聞き捨てられると思ったのだろう。アスカの気を引こうと、怯えていたのも忘れ、声を限りに叫び、続けて行く。
〝我らが殿は!野蛮な輩とは違いまするぞ!生き血など!吸わないでござりまする!〟
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