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騒然とした未来?
「君は……」
男はヤヘヱとは違う。考える隙を与えないようにしたアスカに乗せられることはなかった。ニヤリと粋な笑いを見せて、人間らしい複雑な思いのままに言葉を繋げる。
「なかなかどうして、隅に置けないな」
そう言ったあとで、さらりとアスカに答えていた。
「君に教えたは、君が特別だからだ」
「特別?」
それはアスカには全く喜べる話ではなかった。モンスター居住区に暮らすアスカの〝特別〟な能力は、〝落ちこぼれの用なし〟を意味する。『霊媒』というのに、彷徨う死者の浄化も出来ない無能ということだ。平穏な暮らしを思い、気にもしなかったことだが、ヴァンパイアに言われると、背中がぞわぞわして落ち着かない気分にさせられる。
アスカの能力は無慈悲なもので、使われない方が世の中も平和だ。聖霊達がろくでもない噂にクスクス笑っているのを見れば、そこは安心していいのだろう。だからこそ、アスカの頭には騒然とした未来が浮かんでならない。
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