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噂の中心?

「むうぅっ」  アスカは憤然と喉を鳴らし、悔しげな思いで息を吐いた。男が〝キスマーク〟を付けた時、薄れる意識の向こうで、聖霊達の〝ウフフクフフ〟と笑い合う声を聞いている。中世の居城のような別荘に近付こうとしない彼らだが、それも含めて、今頃は大騒ぎしているはずだ。 「待ってろよ、あとで一発ぶちかましてやる」  そう決意して、拳を振るってみたところで、毎度のこと、聖霊達には実体のないその姿のままにきょとんとされる。言葉で説き伏せようとすれば、どこ吹く風と無視されて終わりなのもわかっていた。 「クソっ」  精一杯に悪態を吐き、鬱憤を晴らすしかないが、それで思い出せたことがある。精霊達の噂の的はアスカではない。彼らにとっての主役は男だ。言うなれば、アスカは添え物、とするのなら、噂の中心で恥さらしになるのも男だ。男はいちゃつく気もないのに、アスカを糧にした。それが大きな間違いだったと、その時になって知ることになる。

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