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感情は存在しない?
男の〝キスマーク〟は今更どうしようもないことだ。ヴァンパイアにしか見えないものとわかり、両親に知られる心配もなくなった。聖霊達と共謀し、この先一生〝キスマーク〟をネタに男をからかう。これに尽きると、アスカは思った。
気持ちが静まると、男への腹立ちが収まった。ヴァンパイアの糧として、男とかかわり合う。その覚悟も出来た。
「けど……」
そう小さく呟き、男と誓約書を交わしていない事実をアスカは案じた。現代を生きるモンスターには犯罪ともなり兼ねない行為だ。男がアスカの血を吸わずにいたのも、保身を図ってのことなのかもしれない。そういった男を、聖霊達は高潔とのたまい、ヤヘヱは野蛮な輩とは違うとほざいた。
男がアスカに〝キスマーク〟を付けたのは、ヴァンパイアの欲求が理由ではない。男も〝あやつ〟からアスカを守る為にしたと話している。〝あやつ〟とのあいだにある因縁が、男を動かした。そこにアスカへの感情は存在しない。
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