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無用の長物?
父親の思いを考えると、母親を喜ばせたいという愛がアスカには見える。その優しさに、母親も嬉しそうに応えている。アスカと男にはそういったものはない。わかっているが、ただの偶然とは言い切れないものを感じてしまった。男の口調には気に入らないことも平気でしそうな雰囲気がある。愛には遠いが、父親の思いには程近い。
「いやいやいやいや」
そう思っても、余りに突飛とアスカは否定した。
「ないないないない」
無表情が激しさの裏返しとしても、アスカには安心安全な男だ。〝あやつ〟との因縁で糧にした『霊媒』を喜ばせる為だけに、男が危ない橋を渡るとは思えなかった。
「あはは」
アスカは自分の愚かしさを笑った。それを男は問い掛けへの答えと受け取った。
「君もそう思うか」
決め付けるように言い、安堵しながら続けている。
「時代は幾らも便利な暮らしを用意する、前世紀の遺物など不便なもの、さりとて壊すのも惜しい、無用の長物というより他ない」
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