143 / 811

男が二人?

 意味深な行動で期待させた男が悪い。アスカを糧にした責任も男にあるのだから、文句は言わせない。そうは言っても、ここで男に変に勘繰られては楽しみも半減してしまう。アスカは無駄と知りつつも、戻ったら、精霊達に隠密的な所作の有意性を説くよう頭にメモした。  そのあいだも途切れなく、聖霊達はぺちゃくちゃぺちゃくちゃと元気に喋り続けていた。彼らが気紛れなのはいつものことだ。ヌシへの恐怖も忘れ、応接室にいる人間について夢中になって噂し合っている。人間の持ち物に宿って観察し、記憶し、それを楽しんでいるのだ。 「男が二人?駐車場の二台?」  アスカは精霊達の話から別荘の裏手で目にした黒塗りの車を思った。安心安全な男のクソ車を見て、あの二台もヴァンパイアのものと思い込んでしまった。精霊達はモンスターには近付かない。たとえ人間のものであったとしても、身を潜め、存在を知らせる声を出したりしない。喋りに興じる今が異常だった。

ともだちにシェアしよう!