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死者に入り込まれ?

〝たすけ……おねが……い〟  死者の声というのは間違いないが、細く柔らかな声音にはアスカが幼い頃から悩まされる恨みつらみがなかった。諦めが悪い胸の痛みに寄り添おうとし、儚げに響いたことも、アスカを少なからず驚かせる。 「クソっ」  アスカは口の中で小さく呟いた。アスカの能力に彷徨う魂の浄化はない。頼られたとしても何も出来ない。初めてのことだが、無意識に遮断し、うまく聞き取れなかった自分を不甲斐なく感じた。 「けど……」  声には耐え難い死者の悪臭もなかった。最初からアスカの近くにいなかったようだ。アスカは思いの残滓を聞き取ったに過ぎない。彷徨う魂は既に遠く離れていた。  この別荘はヌシの住まいだが、目の前を歩く男が変態気分で建てた居城でもある。〝無用の長物〟と言ってヌシに譲りはしたが、〝壊すのも惜しい〟と執着を見せている。その男が死者に入り込まれたのを黙って見逃すとは思えない。迷い込んだ死者もすぐに逃げ出す。

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