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守ると決めた?

 無表情であっても、アスカの安心安全な男には人間らしい感情が匂い立つ。しわがれ声との遣り取りで、ヴァンパイアが序列の厳しさを無表情さで凌いでいることを、アスカは知った。男は仲間にも見せないものをアスカには見せたことになる。糧の証である〝キスマーク〟が影響したのかもしれない。  糧にしてアスカを守る。男の話はそこまでだ。アスカとどうかかわるつもりなのかは聞かされていない。それでもクソ生意気なヤヘヱがいたことで、アスカにも目星が付いた。糧についてはわからないが、ヤヘヱのことなら多少はわかる。ヤヘヱはペットのようなものだ。噛み付かれてもよしよしと頭を撫でてやるような愛玩物で、大切な家族だが、〝アハンウフン〟と刺激し合う間柄にはない。  男の守護とはそうしたものだろう。応接室の入り口で、男が一切の感情を排除した典型的なヴァンパイアに戻ったのも、守ると決めた糧をその逞しさで庇おうとしたからと、アスカは思った。

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