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強みじゃね?

 アスカの安心安全な男は、ヴァンパイアに変異したあとの長年の経験から助言したようだ。ヌシも白蠟気味の肌と銀白色を帯びた錫色の瞳をしているが、安心安全な男よりは深みがあり、色素の薄い異国の少年と見えなくもない。先祖に外国人がいそうと感じる程度の普通さが、ヌシにはある。子供っぽい不貞腐れた顔付きにしても曲者だった。ヴァンパイアの序列の厳しさは、形だけと思わされそうになる。そうした何気ないところに、本物の恐怖が潜んでいることを、男は教えようとした。度を越した世話焼きからの警告でもあるようだ。 「けど……」  威張り腐った態度で椅子に腰掛ける男二人を眺め、アスカは続けた。 「あそこまでになるとさ、怖いもの知らずってのも、強みじゃね?」  周りを気にして小声にしたが、安心安全な男の肩先で言ったのだ。男には聞こえている。男は死人のように固まったままだが、それが言葉に代わる男の答えというのは、アスカにもわかっている。

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