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内々の掟?
ヌシは外見的には少年でも、中身はアスカの安心安全な男以上に大人だ。ヴァンパイアの頂点に立つのに、どれ程の年月を必要としたのかはわからないが、その分、成熟し、老獪にもなっている。
〝見目麗しい少年と侮るは間違い〟
男の言葉は、男自身への戒めでもあった。果てしない時間を生きて来たモンスターを子供扱いするような間抜けではないのだ。男はヌシの誘惑的な微笑みにも動じず、死人も舌を巻くだろう凝固を続け、ほんの僅かな隙さえ見せないでいる。
ヴァンパイアに属したからには、君臨するヌシの内々の掟に、男も逆らえない。ヌシに命じられたのなら、理由を知らされないままであっても素直に従う。アスカを連れ出す為に、興味のない占いに予約を入れたのは、守護が信念の〝我らが殿〟の用心深さがさせたことだ。用心深さは逆心ではない。それでもひた隠す激しさを思うと、ヴァンパイアの変異には人間であった頃の感情も重要と、アスカは思わせられる。
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