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悪乗り?
人間の激しい感情が変異を促すとは奇怪な考えだが、ヌシを子供扱いする男二人を眺めていると、アスカにもそれが正しいことに思えて来る。二人はヌシの突然な笑いに驚き、言葉をなくしたあと、怒りを爆発させた。椅子から立ち上がり、ヌシに襲い掛かろうとする。十代半ばのほっそりした体を、三十代半ばの大人の力でねじ伏せようというのだ。アスカはその怖いもの知らずを強みと言ったが、感情として見れば脆弱と思うばかりだった。
ヌシは平然としたものだ。深みのある錫色の瞳を、アスカの安心安全な男から自分へと手を伸ばす男二人に移しても、微笑んでいる。そしてさらりと言葉を発する。
「去ね」
その声に、男二人が動きを止めた。すぐに滑らかな動作で部屋の外へと歩き出す。意識しているような自然さだが、覇気のない顔付きに、二人共に無意識なのがわかる。ヌシは〝ウフフクフフ〟と笑い合う精霊達に悪乗りし、男二人を軽々と、楽しむように幻惑したのだ。
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