165 / 812

解釈の相違?

「おいっ」  部屋の入り口では不意なこともあって足がもたつき、男の背中に無様に倒れ込んだが、中では足の運びに気を使い、アスカも納得の見事な小走りで近寄った。そしてやや背の高い男との身長差を意識しながら、逞しい背中にうまく隠れて文句を言った。 「一声掛けたって、あんたの腹は空かねぇだろ」  糧にはなったが、男に一滴の血も吸われていない。だから空腹と言わせるつもりもない。男の〝キスマーク〟は見せ掛けだ。ヌシに手出しさせない為にしたことで、男にもこう言われている。 〝頂く意志がなければ、その行為も、私の紋章を付けたに過ぎない〟  男とのあいだに〝キスマーク〟と〝紋章〟という解釈の相違があるように、守るという考えにも違いがある。男の守護に甘えはするが言いなりにはならない思いが、アスカにはあった。それが声音に表れていたようだ。アスカはヌシに聞かれるのを承知で言ったが、男に注ぐ視線まで引き寄せるとは思っていなかった。

ともだちにシェアしよう!