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なしなし?

「あなたに効かないって知ってたけど、試したかったんだ」  ヌシはほんのり赤く頬まで染めて楽しそうに話している。話しながら視線をアスカの安心安全な男へと動かし、可愛らしい口調の中にも叱るような厳格さを込めて続けて行く。 「糧にするってわかっていたよ、キイはそういう男だもん、だけど、僕とお兄さんのあいだに立つのはやめてよね」 「おっ……兄さん?」  アスカはウへッと思う。気色悪さに我慢が出来ない。 「てめっ」  男の横に体を移し、いつもの調子で怒鳴ってしまった。 「バカにしてんのか!」  鳩に豆鉄砲とはヌシがこの時に見せた顔をいうのだろうが、図らずも見せたその顔が、ヌシには許せなかったようだ。少しずつ顔付きを本来の化け物へと戻して行く様は、凄いという以外にアスカには思い付けない。 「あっと……」  美貌に映し出される無表情が恐ろしい。触れた瞬間に全てを凍らせる冷たさだ。アスカは焦り気味に言葉を繋げた。 「なしなし、今のなし」

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