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実力行使?
「余計なことを考えるな」
男の口調は低く脅すようだった。それをケチ臭い根性なしと思っても、アスカには口にしないだけの礼儀がある。ふんと鼻先で笑い飛ばすことで男の横暴さに逆襲した。腕を離せという合図も兼ねたが、男には伝わらなかった。
「クソっ」
ヴァンパイアの馬鹿力はタチが悪い。振り払おうともがけば、こちらが馬鹿を見る。アスカは仕方なく、言葉で男を説き伏せることにした。
「俺はこいつに幻惑されねぇんだ、現実が見えてんだし、助けて欲しけりゃちゃんと言うさ、糧の作法ってのも関係ねぇしな、遠慮なんてしねぇぞ、で、今はそんな気分じゃねぇ、引っ込んでろ」
男が相手だとアスカの喋りも軽快になる。ヌシを〝こいつ〟と言ったことさえ、アスカは意識していなかった。
「こいつの用件、聞いて、さっさと変態屋敷からおさらば……っ」
現実は時に突拍子もないことを見せてくれる。ここで男が実力行使に出たのがまさにそれと、アスカは思った。
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