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あの人?
アスカは少しのあいだ男の逞しい背中を膨れっ面で眺めていた。そのあと、ふと肩先に顔だけ出してヌシを見る。ヌシは可愛らしく小首を傾げ、微笑んでいた。少年らしい見た目に合わせた微笑みは、中身を知ったアスカには不気味なものに映る。突っ掛かっても無事でいられる男の安心安全さが身に染みる。
「あんたさ、俺に話があるんだろ」
アスカは男の後ろに身を隠し、そこからヌシに向かって声を張り上げた。
「けど、あんたとサシでってのはこの男の顔が立たねぇ、面倒でもこいつを通してくれねぇか」
「うーん、お兄さんには悪いけど……」
アスカとの関係は人間を相手にするのとも糧を相手にするのとも違う。そこに戸惑いを見せたとしも、男に視線を定めて話すヌシの口調は弾んでいる。
「そうも行かない、よね?キイ?」
ヌシはその長身を愛でるように男を見上げ、精霊達のクスクス笑いに似せて言葉を繋げた。
「お兄さんはあの人とは……っていうか、昔とは違うね」
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