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〝みつき〟?

「美……月、本当……か」  男はクソマジにヤバい響きを固くして言った。ハンサムな顔も人間らしい怒りに歪ませている。衝動的に手を出されてもおかしくない雰囲気だが、アスカには安心安全な男だ。恐れることはない。それより〝みつき〟と呼ばれたことの方を、アスカは気にした。  それは両親しか呼ばない本名だった。音が同じであったことは、この時のアスカにはわからない。聞こえたままに〝みつき〟と問い返していた。 「充……希?」  人間外種に登録変更を申し入れた時、本名を忌み名にするよう選択したが、それによって〝充希〟は守秘義務の範囲になり、両親だけが呼ぶ家族の証しになった。モンスター居住区に暮らすアスカのことが筒抜けなのは理解しても、口慣れた調子で使っていいものではない。そう思って睨み返したが、男の射抜くような眼差しに出会い、はっと一瞬息が止まる。男はアスカを見ていなかった。ただひたすらにアスカの瞳をじっと見詰めていた。

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