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ひんやりして?
ヌシの長話に合わせたように響いた男の声には、アスカに深入りするなと忠告する雰囲気があった。実際は過去において男が口にした答えでしかない。
〝早う致せ〟
何を促したのかは、魂の記憶がアスカに見せる。燃え盛る炎が衣服に迫り、肉体をも焦がそうとする中、男が胡坐の上に細く柔らかな声を座らせ、清楚な身を腕の中に収めて炎から守っていた。すぐ後ろに小姓姿のヌシがいた。背後から手を伸ばして男の逞しい首を露わにし、唇を這わせている。脈打つ場所を見付け、そこに鋭く尖った歯を突き立て、細く柔らかな声に―――アスカに言葉を残し、姿を消す。
「キイの変異、見ものだよ」
男は我が身に起こった全てを僅かな震えで耐えていた。その微小な揺れが止まった時だ。男の瞳が銀白色を帯びた錫色に変わった。戦いの日々に日焼けした肌も白蠟気味になり、炎の熱も追い遣る冷たさにひんやりして来る。
〝いやぁぁぁっ〟
細く柔らかな声の叫びに、アスカは怯えた。
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