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男の愛?

「クソったれがっ」  つくづくそう思った。好きにやっていろと突き放したくても、『霊媒』としての能力がアスカにそれを許さない。魂の記憶というだけなのに、自分のことのように辛く悲しい。男がモンスターへと変貌するのを目の当たりにした声の叫びに息苦しくなる。そういった思いに捉われることにアスカは怯えた。  アスカを〝特別〟なモンスターと言ったヌシには何かしらの恐れがあったようだが、その何かの為に、ヌシは男の変異とヴァンパイアの秘密をほんの少しアスカに教えた。細く柔らかな声を聞き付け、願いを知ってアスカをはめたのだ。精霊達も手を貸していそうだが、彼らを締め上げるのは家に戻ってからと、アスカは思う。  ヌシにとって男がヴァンパイアに変異したことが重要で、あとのことはどうでもいい。男の愛が本物と証明されたことに興奮する要素はない。ヌシはさっさと先に魂の記憶から抜け出ている。そこはアスカも追随したいところではあった。

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