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時間が戻って?

 アスカは男を安心安全でケチ臭い根性なしと思っているが、変異を壮絶に切り抜けたのだから、ケチ臭い根性なしは取り消すしかないような気がした。ヌシによると、変異には凄まじい痛みが伴うそうだ。男が見せた愛の証明も並大抵の痛みではなかったことになる。だからこそ、ピュアな愛を認めるより硬派な根性を称える方が、アスカにも男の変異を受け入れやすい。  ヌシはとうに立ち去っていたが、魂の記憶はアスカを引きとどめ、男が変異したあとのことまで意識に映し出して行く。ひんやりした体に炎は近寄れない。熱に爛れた肌も元へと戻る。男は焼け焦げた衣服を払い落とし、神々しい程の逞しさを露出させ、細く柔らかな声を腕に抱き上げ、悠然と燃え盛る炎の中へと歩き出していた。  どこに向かったのかはわからない。細く柔らかな声が気を失い、魂の記憶もそこで途切れている。アスカの意識も遠退くが、同時に、アスカは自分自身の時間が戻って来たのを理解した。

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