191 / 813
渡さない?
「あんたさ」
アスカは頑固に立ちはだかる男越しに、ヌシへと話し掛けた。
「長く生き過ぎて、脳味噌、腐っちまったか?真面目っつってバカにすんのはいいけど、こいつに出来やしねぇの、わかってんだろ?」
ヌシの目が驚きに瞬いた。男に代わってアスカに皮肉られるとは思わなかったようだ。それを見て、男の無表情がほんの微か崩れたように、アスカには思えた。見間違いでも気分がいい。ヌシを苛立たせたのは確かだからだ。
「あーあ、つまんない」
ヌシは間違いなく機嫌を損ねた。それでもまだ気持ちに余裕があるようで、楽しげに続けて行く。
「お兄さん、ホントあの人とは違うんだね、淑やかで儚げで、お兄さんみたいに憎まれ口なんて言わない人だったもん」
「ったりめぇだ、俺は俺だぞ」
アスカに笑って返され、ヌシは顔付きを変えていた。大人びるのとは違う。我がままな子供に戻って不貞腐れたのだ。
「だけどキイは僕のもの、お兄さんには絶対に渡さないから」
ともだちにシェアしよう!