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ムリムリ?
「なら、あんたは?」
アスカは逞しい色気を放つ男の背中を眺めつつ、肩先からヌシを覗き見るようにして心の中で問い掛けた。ヴァンパイアに変異するには純粋で激しい感情が必要というが、そう話していたヌシ自身はどうだったのだろう。どういった感情があったというのだろう。守護が信念の男には愛があったが、ヌシはそれを完全に否定していた。
〝愛なんて、いざとなったら脆いからね〟
そう信じるヌシには、男の愛は珠玉の変異なのかもしれない。
〝最強の激しさってさ、やっぱ復讐じゃない?〟
ヴァンパイアは激しい感情と引き換えに変異し、凍り付いた魂で無敵となって望みを満たすが、それによって服従を強いられる。変異を成功させた程の激しさを持つ者達だ。不満があっても無表情で隠している。それさえヌシを喜ばせるとしても、ヌシの手に落ちた魂に自由はない。
「逆らうなってか?」
アスカはヌシに向かって胸のうちで続けた。
「俺にはそんなん、ムリムリ」
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