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上等じゃね?

「ったく……」  アスカは細く柔らかな声の願いを思った。ヌシから自由になるとは、ヴァンパイアへと変異した肉体が塵となり、魂が闇に落ちるという意味にもなる。男を塵にしないまま、魂の解放を願った声の思いもそこにあると気付く。  ヌシは男を〝僕のもの〟と言い切り、アスカには〝絶対に渡さない〟と宣言している。男が精霊達に〝そなたらの願い、成就せず〟と言ったのは、ヌシが男をやすやす手放さないのがわかっていたからだ。最初からアスカを当てにしていなかったのかもしれないが、精霊達の噂への執念をさすがに男も見誤った。 「で……」  聖霊達にはモンスターとの約束がある。肝心なことは話せないが、ろくでもない噂は思うがままだ。聖霊達は彼らが満たされる形でアスカに教えようとした。 「修羅場、だろ?」  彼らの〝ウフフクフフ〟な台本では脇役だが、脇役が主役を食うこともある。アスカはまさに男に食らい付く自分を思って続けた。 「上等じゃね?」

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