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ヌシの趣味?
損得を思うのなら、細く柔らかな声の願いを叶えたところで、アスカが得することは何もない。助けるよう願われた当の男は、アスカの魂の奥深くに潜むその声を何百年も引きずっている。銀白色を帯びた錫色の瞳が求める相手は、アスカの瞳に映し出されるその声であってアスカではない。惨めさばかりで得することは何もないのだが、聖霊達が考え付いたろくでもない修羅場でも、それが救いの鍵というのなら、目くるめく愛欲の炎に身を焦がす夢を絶たれたアスカには、なんとも魅力的な願いだと言えなくもない。
「ふっふっふっ」
アスカは鼻息だけで笑った。ヴァンパイアはハンサム揃いだ。血を頂く為の疑似恋愛を仕掛けるのに有利だからと思っていたが、ヌシの趣味が優先されていたようだ。色男に囲まれて、ウハウハといった感じだろう。ハゲについてはわからない。ヌシが執着する男の頭はふさふさだ。ハゲ好きとは言い切れない気がする。
「まっ、俺は気にしねぇけど」
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