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男の色に?

「おいおい」  アスカは笑った。男の目付きは本当にクソ忌々しいものだったが、ナマなケツと背中を思ったことで、幾らも笑っていられた。何より素直に言い返せた。 「それ、守るっての?邪魔くせぇからやめろ」  男の無表情に変わりないが、アスカには男の機微な心が見て取れる。ほんの微か目を細めたのが気付けたように、僅かばかり眉を寄せたのを見逃したりしない。それを男にもわからせようと、にっと笑って言葉を繋げた。 「気に入らねぇってか?けど、これが俺さ」 〝君は変わらないな〟  男の台詞が答えのようにアスカの頭に響いて来る。男がアスカに求めるものは幻だ。魂に刻まれる過去は消せないが、蘇ることはない。男も理解していたのだろう。続けてこうも言ったのを思い出す。 〝私の知らない君がいる〟  アスカには〝充希〟として生まれ、〝アスカ〟として生きる今がある。たった十八年でも、そこには男の色に染まらないアスカの人生が色鮮やかに存在していた。

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