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気持ちがもやっと?
「俺は……」
聖霊達のろくでもない修羅場に乗りはするが、アスカがアスカであってこその修羅場だ。自分を押し殺すつもりはない。目くるめく愛欲の炎に身を焦がす。それを第一に思って続けた。
「そんなヤワじゃねぇ、結構イケんだぜ」
アスカの中で何かが始まったと、男にも理解出来たようだ。男は既にその裏にヌシがいることに気付いている。何を始めるのかにも考えが及んでいるはずだ。嘆きとは違う憂いに沈んだ翳りに、男の無表情がほんのり暗く淀んだのでわかる。
男にはハンサムなその顔に漂う悩ましさが見えていない。ヌシとの対決を危ぶんでのことかもしれないが、今この瞬間は昔の女を忘れている。男が思う相手はアスカだけだ。アスカはそこに興奮し、幸先のいい始まりと思ってみたが、不意に気持ちがもやっとし、喜びが苛立ちへと変わるのを感じ取る。
「うぅん?」
理由を探るように唸り、そして思い出した。男には〝フジタクミ〟という名前の恋人がいた。
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