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すげなくして?
「くうっ」
アスカは悔やんだ。修羅場の醍醐味であるナマなケツと背中に気を取られ、〝フジタクミ〟のことがすっぽりと頭から抜け落ちてしまった。男をからかって楽しむという企みでは刺激になると笑えもしたが、マジな修羅場となると笑い事では済まされない。魂に潜む昔の女とは自分との闘いになるが、〝フジタクミ〟とは現実的な戦いになる。これがヌシなら遠慮はしないが、〝フジタクミ〟には後ろめたさを感じてならない。そういった思いで小さく続けた。
「面倒くせぇ」
最初、アスカは〝フジタクミ〟を女と思った。それを男には〝私に女はいない〟と、その台詞で強制的に終了されている。〝フジタクミ〟がヴァンパイアというのもヤヘヱから聞かされたことだ。情けを受けて寵愛に報いた関係という話でもあった。掟に縛られた仲間同士、つまらない付き合いにしか思えないものだが、だからといって〝フジタクミ〟をすげなくしていいことにはならない。気も使う。
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