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誘惑の匂い?
アスカの占い師としての仕事は、気紛れな精霊達のろくでもない噂を、客の悩みに応じた内容へと導くことから始まる。それにはある程度好きに話させる必要があった。その後にさらりと核心部分へと誘導する。子供の頃からの付き合いで学んだ方法だが、それをヌシにも使ってみた。ヌシが表情をふわりと揺らしたことで、うまく行ったとわかる。一瞬に過ぎないことでも、悠久の年月を生き抜くモンスターを、アスカはその目に捉えたのだ。
「お兄さん」
ヌシが無表情に近い顔付きをして、平坦な声音でアスカを呼ぶ。ヌシの美貌に映し出される無表情こそ、化け物の恐怖を体現したものだ。触れた瞬間に全てを凍らせる程の冷たさだが、僅かな感情の残り滓に、そこまでの恐怖をアスカも感じない。
「それ、聞いてどうするの?」
そう続けたヌシには艶めきがあった。アスカはそれがヌシの素と気付いた時、ヌシの男に向けた微笑みに誘惑の匂いを嗅ぎ取った。今も同じ匂いがした。
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