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やってられっか?

「うん、だね」  ヌシの返事はあっさりしたものだった。ヌシがアスカに見せた誘惑は、操ろうという意図があってしたことだが、幻惑が無理と知る相手を嘲笑したい思いもあったようだ。結果には満足したのだろう。ヌシは子供に戻って、可愛らしく話す。 「精霊達、ちゃんと約束、守ってくれてるね」 「クソったれがっ、いい加減にしろよな」  アスカは悔しげに顔を顰めた。うまい具合にヌシを乗せたと思っていたのに、振り出しに戻ってしまった。これでは堂々巡りだ。 「何があって俺を呼んだんだって聞いてんだろうがっ、それをちんたらちんたら無駄な話ばっかりしやがって、んなもん……」  我慢ならずに、声を荒らげて言った。 「やってられっか!」  ヌシのクソったれな誘惑への意趣晴らしに、アスカはその気もないのに行動に出た。廊下に向かって体を回し掛ける。瞬間、はっとし、動きを止めた。男に腕を掴まれていた。そのままぐいっと、高飛車な勢いで引き寄せられた。

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