ヌシは子供じみた遊び心で感情を弄ぶ。アスカにもしたことだ。煽って刺激し、男を苦しませて楽しんでいた。それをいいようにされたのだ。苛立ち、悔しがるのはわかるが、肝心のアスカに腹を据えられては、遊びもここまでと諦めるより他ない。 　ヌシもそう結論したようだ。不機嫌な顔付きで軽く手を振り、そこにはいない誰かに指示を出していた。その動きがアスカには人間らしい普通の感覚で頓狂に映る。キレのない声を上げたのもそのせいだ。 「あぁん？」 　自己顕示によるものか、ヴァンパイアはやたら瞬時に動きたがる。今も瞬きした直後に、アスカはあのしわがれ声のヴァンパイアがタブレットを手に畏まっているのを見る。 　古風な装いの年老いた執事が手に持つタブレット程、奇妙なものはない。慣れた手付きで操作し、動画まで再生させている。中世の居城のような屋敷に似合いの所作と言えば、静々とヌシに伺いを立ててから画面をアスカに向けたことくらいだった。