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見送りは不要?

「バカじゃなきゃ、人狼だって気付いてっだろ!」  気兼ねなく好きに話せるアスカの気分は爽快だった。周りの空気も煌めき、弾けて行く。モンスター居住区に移り住むまでは、誰にも知られずにいたことだ。ここでは違う。アスカが無意識にしたことにも、ヴァンパイア達がそれぞれの思いに沿って応えていた。  しわがれ声は白蠟気味の肌を骨が透けそうなくらいに青くして震えている。ヌシは機嫌を直し、空間に浮かぶ光の粒を楽しげに眺めている。男はアスカにケツと背中を向けたまま、完璧な無表情を貫いている。 「あんたら、クソな約束、聖霊達にさせたよな、あん時、人狼とも話し合ったって聞いてっぞ、それ、またすりゃあ……いい……」  アスカは調子に乗って続けたが、体がふわりとし、最後まで言えない。はっとした時には、男に抱きかかえられている自分に気付く。 「見送りは不要」  クソマジにヤバい響きに、しわがれ声が怯えるように頷いたのがアスカには見えた。

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