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どっちもしてねぇ?

 アスカは思い出したように恐怖の色を顔に出した。男がヴァンパイアらしい完璧な無表情を見せていたのなら、ここまでの恐怖を感じなかったようにも思う。ヴァンパイアを認識しているのなら、怪力への理性も働かせるだろう。人間らしい普通さで思いを隠されては、つい弾みで一捻りされ兼ねない。その恐怖に顔色を変えたのだが、男にわかるはずもない。男は顔付きをどす黒い程の暗さにして答えていた。 「あやつに人間への関心はない、気にするは人狼、アルファぞ」  口調は穏やかでも、クソマジにヤバい響きは耳障りに掠れていた。相当頭に来ているようだ。それならと、アスカはそれとなく喉元の手を離せと促したが、男は放そうとしない。アスカの不安そのままに、ほんの微か指先に力を込めて続けている。 「糧とする血、弄ぶべき感情、人間に求めるは、二つのみ」 「けど、あんたはさ……」  アスカは恐怖をからかいに変えて言い返した。 「俺にはどっちもしてねぇよな」

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